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インタビューNO.02 似顔絵師タナカサダユキ先生のインタビュー/前編
似顔絵情報サイト「ニテンナ」2人目のインタビューはタナカサダユキ先生です。私マジェリンと、旦那のかっとが2人で運営している似顔絵教室にゲストとしてお越し頂きました。生徒さんの中からモデルを1人選んで、実際にペンを動かしながら対面似顔絵について語って下さいました。
タナカサダユキ先生のプロフィール
年齢:1963年生まれ/京都精華大学卒/似顔絵歴34年目/似顔絵講師歴15年/テレビチャンピオン似顔絵選手権を2連覇。
現在は京阪百貨店勤務されていて、副業として口コミのみで似顔絵のお仕事をされています。
サダユキ先生のFacebookページ、Instagram。
似顔絵は鉛筆と紙さえあればいつでも誰でも始められる。
こんなに簡単で便利な絵のジャンルはないですよね。でも、だからこそいつでもやめてしまえるんですよ。
高い道具を買って、それが手持ち無沙汰に余っちゃうって事もない。それでもだんだん欲が出てきてアレコレ描いますけども、買った物の中で「これは自分の強い味方になってくれる!」とか「絵がもっと上手くなる!」と思って買うと、だいたい皆さんハズレます。シンプルにしていって画材はちょっと足りないかも?と思う程度で良い。
色紙は画仙紙の梅を使っています。ドーサ引きとか色々ありますけど、今は梅を。筆や絵の具が良い具合にかすれてくれるんですよ。
あまねく全ての似顔絵にはドリームがある
ご婦人の似顔絵は「どこまでほうれい線を描いて良いんだろう?」「若過ぎる似顔絵は怒られるのでは?」と、似顔絵師にとってはいつも課題ですよね。サダユキ先生はどのように描いているのでしょうか?お伺いしました。
5年前、10年前の若かった頃の私。「今アンチエイジングを頑張れば10年のボーナスがもらえるかも!」という期待が似顔絵にはあります。
ですから首を少し傾けるような感じで。まっすぐにシンメトリーに描くと絵がつまらなくなるという事が経験上分かるので、少し斜めに傾けた方が女性らしくなります。実際のモデルに首を傾げて頂く事はないですけどね。そして絵の中ではほんのり左肩をあげて描く事が多いです。そしてアタリを取る時にはその人のポーズがもう頭の中に浮かんでいます。
自然に若返ったお顔をイメージするには?
人間は加齢とともにほうれい線ですとか、引力に逆らえない事情が出てきます。ですが5年くらい前の自然な姿をイメージするにはですね、私がよくお風呂上がりにやるんですけども「耳ひっぱり」をします。
そうするとほうれい線が一瞬消えて、口角の周りも変化するんですよ。骨格そのものは変わらないから、お風呂上がりの皮膚があったまった状態で耳ひっぱりをすると程良く若返ります。
80歳のおばあちゃんを描く時に、その人を40歳には出来ないけども60歳くらいには、いや55歳くらいでも良いやと。オベンチャラしてやれと。この耳ひっぱりの法則を使ってご婦人の似顔絵を描いていくわけですね。
あとはお召し物。カチッと系なのか、フワモコ系なのか、 ピチピチ系なのか。関節のところに出来るシワやドレープ感が違うので、描きグセで描いてしまわないようにしています。
首そのものはあまり描かない
私は絵の中で首そのものはあまり描かないです。首を表現する線はネック周りの襟だとか、そういった物を描くことによって自然に出来上がるので、スピードを求められる現場ではほんの何秒かでも節約になります。
笑顔にこだわりたい
人間のパーツはだいたい眉の下に目があって、真ん中に鼻があると決まってます。そこから表情筋やパーツのレイアウトが違うからこそこの人は誰々だと識別出来る訳ですよね。
人の感情には喜怒哀楽あるわけですが、よっぽどのご要望がない限り、似顔絵は基本笑顔ですよね。
なので私はどんなに笑わないオジサンでも笑わせたいわけですよ。絵を描かれにきて何でオマエは腕を組んで「ンッ!」としているんだ、オマエは貫太郎か!と。「世界一優しいおっちゃんに描いたるから覚悟しとけよ!」みたいな気持ちになるわけですよ。
でも大体のオジサンはムッツリしてて、似顔絵もムッツリ描くと「わぁ!お父さんのこのムッツリ加減がそっくりーー♪」って周りの人が言う路線やと思うんですけど、私はそれには乗っからんぞと。
日常的な笑顔は自分の鏡では見られない
鼻っていうのは笑顔の時でも小鼻以外はあんまり動かないんですよ。なので私は鼻を中心に捉えます。そして目元は眉とセットで捉えます。眉と目はセットだからこそ作り笑いじゃない自然な笑顔を描ける。
作り笑いじゃない日常的な笑顔は普段自分の鏡では見られないですもんね。だから私は普段「私が合図をするまで笑わないで下さいね。私が指をパチンとするまで笑っちゃダメよ!」というようなトークをしている最中に、一瞬笑ってくれるんですよ。その2、3秒を見逃さない。皆さんこれ使って良いですよ(笑)
自然な笑顔はほんの数秒後には元に戻しはるから、口角の変化を絶対に見逃さない。私はこの目尻と口角を大事な四角(よつかど)と呼んでいます。
お子様を描く時
現場にいらっしゃる子供のお客様は動き回ったり、その場からいなくなっちゃう。
そんな時にその場で写真を撮っといて、それを見ながら似顔絵を仕上げる作家さんもいらっしゃるとよく聞くのですが、それをやると絵が資料画像に引きずられて人物が止まっちゃう。だから私の場合は残像に留めます。
念のために着ていたトレーナーの柄とかアルファベットとかを見るために写真を撮ることもあるんですけど、ほとんど見ないです。そのお坊っちゃまがお召しになっているトレーナーの文字とかも私は全部変えちゃいます!
例えばその服の柄の中にあるクマさんだとか鳥とか猫とか、そう言ったものを外に出しちゃうんですね。その世界の中にいる主人公としてお子様を描く事が多いです。
私の絵によく登場するこのカエルは私が実際に腹話術で使っているカエルです。「マタノアツコさん」のところで売っているカエルで「ハルサメちゃん」っていうんですけど、
3、4歳くらいの集中力がないお子様とかに私が腹話術師になって、この子の声と自分の声を交差させながらですね「えっ、何このオジサン?」って思われながら子供の注意を引きつけさせますね。
そしてこの子はお手伝いさんでもあるので、私の絵筆を筆洗で洗い流すところまでやるわけですよ。あとは、頭に乗せたりして子供たちの注意を強く惹きつける必須アイテムですね。
背景には水玉を
あと私よく背景に水玉を描くんですけど、私の教室の生徒さんには「どんどん水玉を描いてあげなさい」と言っています。これだけで子供は大喜び!具体的には親が喜ぶんだけど、子供の目を引いて、親も間が持って助かるんですよ。
水玉の色味は、イベント会場の客層や「女性が多いな」「ハロウィンが近い」「カップルが多い」「今日は絶対にピンクを多用するよな」などと推測して、イベント開始前にパレットに準備します。
そして例えば、これはハロウィンの時期に描いた似顔絵なんですけども、本来のTシャツ絵は別のものでした。
普段からバレンタインや子供の日、クリスマスなどのライフイベントなどのイラストはいちいち資料を見なくても描けるように一年分、頭の中にストックがあります。
様々なご要望やシチュエーションを描けるか、いつもドキドキ
左の節分のイラスト、これ美味しそうでしょ?これ、今年の恵方巻きは北北西。こういうのも下調べします。
そして右のイラスト、これファミリー巻きって言って広告用のイラスト何ですよ。蟹とか海老とか入ってるでしょう?自分も食べたくなるような、海苔の色なんかもコピックの薄い紫とか、単純に黒を塗るんじゃなくて、この海苔っぽさ。
こんな風に日本人好みの行事にまつわるアイテムはいつでも席描きの時に描けるようにストックしています。ですが例えば母の日といえばカーネーションですが、ただカーネーションを持たせるだけだと誰でも思い付くんじゃないかって、欲が出てきてカーネーションのアレンジメントで描いてやれっ!て。
対面で似顔絵を描く時はその人の好きな物を聞く事が多いです。例えば甘い物が好きなのか、お酒が好きなのか。甘い物が好きでその中でもコーラが好きだとか、そんなトークをするようにしてます。
このようなお題は自分から話を振らなければ、描かずに済んだんですけど、あえて好きな物を絵の中に入れるかどうかというところで常にドキドキはしています。でもそうやって現場力を鍛えていってる感じです。
授業中に仕上げて下さった生徒さんの似顔絵がこちら
これだけのインタビュー全てにお答え頂きながら同時進行でこんなに丁寧な作品を仕上げて下さいました。
本来先生からモデルさんへ聞き出さなければ描くはずのなかったコーラも上品にストローを握って描かれています。
こうして枚数を重ねるたびにチャレンジを繰り返して、絵の引き出しを増やしているんですね。サダユキ先生らしいお客様の喜ばせ方の秘密が少し分かったような気がしました。
インタビューは後編へと続きます。
後編ではサダユキ先生が影響を受けた作家さんについてのトークや、普段お客様をお描きするのとは違うタッチで描かれた芸能人の似顔絵の数々をご紹介致します。
interview 2017,01,25
©マジェリン